■こんな疑問・お悩みありませんか?
- SaaS企業が「ARR」「MRR」とよく聞くけど意味や違いは?
- 売上とはどう違うの?数字が大きい方がいいの?
- ARR/MRRが大きい、または急成長しているのはどの企業?
この記事では、こんな疑問を解決していきます!
■目次
ARR/MRRとは?それぞれの意味と違いについて
ARRとは「Annual Reccuring Revenue」の略であり、「"毎年"決まって得ることができる売り上げ」のことです。
「年間経常収益」や「年間定期収益」とも呼ばれます。
また、MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、「"毎月"繰り返し得ることのできる売り上げ」のことを指します。
つまりそれぞれの違いは「年」単位か「月」単位の指標だという事です。
それぞれの計算式は、後ほど説明いたします。
ただし、どちらも会計上の売上ではありません。あくまでも「KPI*」として扱われます。
(*KPI:重要業績評価指標のこと)
ARR/MRRはここ数年で普及した新しい概念です。
ARR/MRRがなぜ/どういった理由で使われているかは、あまり把握されておりません。
そこで、以下でARR/MRRの用途をご説明いたします。
なぜARR/MRRという概念を使うのか
主に以下2点のためです。
- KPIとして、会社の業績進捗が測りやすいため
- 企業の時価総額(バリュエーション)を算定するため
①KPIとして、会社の業績進捗が測りやすいため
経営する側としては、業績が計画通りに進捗しているかは非常に重要な観点です。
なぜなら、上場企業の場合、下記の事象にあてはまると、業績予想を修正しなければならないルールがあるためです。
「公表された直近の業績予想値から、売上高においては±10%、経常利益又は当期純利益においては±30%の乖離が見込まれる場合に開示が必要」
ARR/MRRを使うことで、業績予想とのズレを発見しやすくなります。
それにより、下記のメリットがあります。
メリット
- 予想修正の公表が迅速に対応できる
- 予想差異をリカバリーするための施策検討~実行も迅速に手が打てる
②企業の時価総額(バリュエーション)を算定するため
上場企業であれば、株式市場で株価が常に決まることで、時価総額も常に把握できます。
ですが、未上場企業の場合は、時価総額は基本公表されません。
余談ですが、日経新聞等で、未上場企業の時価総額上位ランキングが定期的に掲載されます。
こちらは、日経社による情報収集をもとに算出された「理論値」です。概ねあっていると思いますが、100%正確ではありません。
(出典:日本経済新聞)
未上場企業の時価総額を測定できると、主に資金調達時にメリットがあります。
企業側の観点
自社の時価総額を算出して、このぐらいの価値があるからそのうち●%=▲億円を出資してほしいと交渉できます。
ベンチャーキャビタル等の投資家の観点
同業界の他社などの時価総額を相対的に見ることで、出資検討時の適正な企業価値を把握しやすくなります。
ARR/MRRの計算式
では、どうやってARRを計算するかというと、計算式は結構シンプルです。
ARR(円) = MRR(円) × 12ヶ月
また、MRRは下記計算式となります。
MRR = 月額利用料金 × 顧客数
ARR/MRRはどういう業種に使われるのか
結論から言うと、「SaaS*」企業です。
*Software as a Serviceの略語。ユーザーにクラウドベースのソフトウェアを供給する企業のこと。
どの企業がSaaS企業に該当するかは、上場企業なら下記の「株探」で一覧確認できます。
※SaaSに関与する濃淡の度合いは、各企業それぞれですが網羅性はあります。
ただし、ここにある全企業がARR/MRRを公表しているわけではありません。
では、どこでARR/MRRを調べることができるのか、といいますと…、
ARR/MRRはどこで見ることができるのか
結論から言いますと、このようになっています。
ポイント
- 上場企業の場合は、決算説明資料
- 未上場企業の場合は、主にプレスリリースやニュース記事
それぞれ実例も交えて、以下で見ていきましょう。
① 上場企業のARR/MRR
ARR/MRRはKPIのため、社内的な重要数値であるため、決算時の公表義務はありません。
ですが、実態は積極的に公表しており、ARR,MRRが大きい=優良SaaS銘柄といった様相を呈しています。
マネーフォワードは、毎四半期の決算説明資料で、必ずARRに触れています。
2022年1月に発表した通期決算説明資料では、直近のARRが112億、前年同期比+33%と、かなり高い成長性が見てとれます。
チャットワークはグラフ推移での掲載ではありませんが、2022年2月の通期決算説明資料で、37.8億円とピンポイントで書かれています。
プラスアルファコンサルティングの場合は、ARRではなく「MRR」での掲載です。
MRRだと数字が小さめに見えますが、MRR×12をすることで、ARR(年間)での規模感を把握することができます。
2022年2月発表の第1四半期決算資料では、直近のMRRが2.91億円、前年同期比+69.8%と、急上昇しています。
② 未上場企業のARR/MRR
この場合はIR関連資料自体が基本的にありませんが、「企業名 ARR」と検索すれば、ニュース記事などで発見できる場合があります。
Smart HRは、未上場の中で最も注目されている企業の1つです。時価総額およそ1,700億円ものユニコーン企業です。
最近はCMもやっているので、ご存じの方も多いかと思います。
SmartHRは2021年6月、初めて自社のARRを公表して話題となりました。これがこちらです。
未上場にも関わらず、ARR45億とスゴイです。
これは、2022年1月時点の上場企業と比較すると、HENNGE、カオナビと同等のレベルです。
ARR/MRRを見る時の注意点
一次的な収入は含まれない
初期費用、作業費用などが対象です。
需要変動に注意
サービス内容によっては、特定の時期/季節に需要が偏る場合や、大口顧客の加入の場合があると思います。
その際、繁忙月のMRRで計算すると、ARRの見栄えが良くなります(逆もしかりです)。
この点の対応として、一部企業は四半期ごとのMRRに基づいて、ARRを計算しています(四半期の経常収益の合計に4を掛ける)。
これにより、月ごとの変動を平準化して見せることを目的としています。
ARR.MRRの数字の大きさだけでなく、成長率も見るべき
株式市場を見る上で、これはARR/MRRだけではなく、売上や利益にも共通して言えることです。
「成長率」が大事です。
なぜなら、市場はその銘柄の将来性を見込んで、株を買うからです。
仮に、成長率が鈍化するということは、この先の業績に陰りが見えることにつながり、
業績予想の達成が難しくなったり、場合により赤字に転落するなどが起きるからです。
ここで、成長率をどのように見るべきかですが、おススメは「四半期数値の今期vs前期比較」です。
先ほどのSmart HRを例にとってみてみましょう。
Smart HRのARR45億円は、21年2Qの数字となります。
前年の2Q=20年2Qとなるので、そこをみるとARR21億なので、成長率が+100%=2倍になったということです。
どのくらいの成長率が求められるかは、業界、企業の成長ステージにより異なりますが、
SaaS分野では、前年同期比で+30%以上の成長は欲しいため、Smart HRの成長率+100%は申し分無いと言えます。
SaaS上場企業 ARRランキングTOP10
ここからは、2022年3月のデータをもとに、SaaS上場企業 ARRランキングTOP10を紹介していきます。
第1位 Sansan株式会社 ARR179.4億円/前年比成長率24.1%
クラウド型名刺管理法人向けサービス草分け。請求書データ事業『Bill One』も展開。
同社の2022年1月に発表した、2022年5月期 第2四半期 決算発表資料でも、
ハイライトのページで、ARRが触れられております。
第2位 株式会社ラクス ARR158.3億円/前年比成長率35.9%
クラウドとIT人材派遣の2本柱。『メールディーラー』と『楽楽精算』が利益成長を牽引。
第3位 サイボウズ株式会社 ARR157.4億円/前年比成長率24.3%
業務を効率化するグループウェアで国内シェア高い。パッケージソフト、クラウド両方で提供。
第4位 freee株式会社 ARR128.0億円/前年比成長率38.9%
クラウド型会計・人事労務ソフトを開発。主要顧客は個人事業主や中小企業。自動化機能に特徴
第5位 株式会社ユーザベース ARR123.7億円/前年比成長率23.0%
ビジネスデータのSPEEDAやニュースのNewsPicks運営、動画経由の加入強化中
freeeとユーザベースは、以下の記事でも特集しています。是非合わせてご覧ください。
第6位 株式会社インフォマート ARR96.5億円/前年比成長率13.3%
クラウド活用し受発注、規格書、請求書システム運営、外食向け主力。配当は単体配当性向50%
第7位 株式会社マネーフォワード ARR91.8億円/前年比成長率34.4%
個人向け家計簿アプリ『マネーフォワードME』と法人向けの会計・人事クラウドが2本柱
第8位 株式会社エス・エム・エス ARR73.5億円/前年比成長率23.0%
介護・医療業界向け人材紹介サービスで最大手。介護事業者に対し経営支援も。海外へ積極展開
第9位 株式会社プラスアルファ・コンサルティング ARR64.1億円/前年比成長率31.6%
データ分析・可視化のクラウドサービス提供。人材活用、マーケティング、CRMの各分野向け
プラスアルファは、以下の記事で個別に詳しく特集しています。是非合わせてご覧ください。
第10位 株式会社プレイド ARR63.8億円/前年比成長率33.6%
Webサイト・アプリの顧客分析プラットフォーム『KARTE』を展開。米グーグルと戦略提携
プレイドも、以下の記事で個別に詳しく特集しています。是非合わせてご覧ください。
(出典:【2022年3月更新】上場SaaS KPI公表の全て)
数字の大きさでのランキングは、以上となります。
なお、成長率の高さでランキングを見ると、freee>ラクス>マネーフォワードの順となります。
まとめ ~ARR/MRRはSaaS業界共通のKPI
ARR/MRRは、いまやSaaS業界共通のKPIです。
IT業界では、こうした業界共通の指標はあまり無いため、業績進捗や時価総額を測るだけでなく、業界内での相対的な比較をするなど、活用の幅は広いです。
みなさんも是非「ARR」「MRR」を意識していただければと思います。
動画でも詳しく解説しているのでよろしければぜひご覧ください。